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? 引き込まれるリズム
散逸構造など空間的な自己組織化に対して、時間的な自己組織化が「引き込み」と呼ばれる現象である。最もわかり易い例は、わずかに異なる周期を持つ二つの振り子時計を一つの台に固定すると、やがて二つの振り子は周期が一致する現象にも見られる。生物のリズムには、ほとんどの場合、この引き込みが重要な作用をもたらしている。心筋細胞はそれ自身、単体でさまざまな周期で自律的に振動しているが、心臓全体としては一つの周期で規則正しく脈を打つ(Scott,1995)。
このような協同した振動現象もまた、非平衡系独自の振る舞いとして説明されている。系が平衡からどれくらい離れているかという量を表わすパラメータ(R)を考える。図4−37に示すように熱平衡に近い小さいRではゆらぎは固定点に集まり振動は止まる。これよりもRが大きくなると軌道を回る衛星のように一定の周期で振動が繰り返される。このようなサイクルは、非線形ダイナミクスの分野ではリミットサイクルと呼ばれる。Rがさらに大きくなると周期が複数になり、カオスに落ち込む(石井ら,1984)。
B−Z反応もリミットサイクルを持つことが示されているが、同じメカニズムによって神経の興奮も説明されることはさらに興味深い。神経はイオンの濃度によって生まれる電気的パルスを神経細胞の内部で伝播する働きを持つ。周期的振動が空間的に拡散するという拡散作用をB−Z反応に持ち込めば、空間をイオンが伝播レ、電気的パルスを伝えるようになることが拡散−反応方程式の研究によって発見されている。

 

4.4.6 新エネルギーコンセプト
生命システムは、自己組織化の法則を巧みに利用している。物質とエネルギーのフローが作り出す散逸構造には、遺伝情報あるいは環境変動などの外部情報を内部情報と連結する仕組が隠されていることが分かってきた。表4−6にこれらのコンセプトをまとめた。コンフォルモンと呼ばれるアミノ酸配列によって定まるタンパク質の立体配座が支配する酵素反応。自己触媒反応が高次のリサイクルシステムを生み出し、進化まで制御すると考えられているハイパーサイクル。生体高分子の集積を行う自己組み立ておよびオートマトン原理。化学反応と物質拡散が結合することによって時空間パターンを生じる反応−拡散ダイナミクス。化学振動する異なった要素間の信号伝達を可能とする確率共鳴および引き込み現象などが、これまで明らかにされてきたシステム化技術である。

 

 

 

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